シニア犬(老犬)のケア

img.png

わんちゃんもシニア(高齢)になればさまざまな機能が低下します。わんちゃんの老化現象を避けることはできませんが、その程度を抑え、よりよいシニアライフを提供するためにできることはあります。シニアになる前から行うケアや食事管理はもちろん大切ですが、定期的に検査を行い、老化によって生じる問題を早期に発見し、対策を取ることも重要です。今回はシニアのわんちゃんのケアについてです。

シニア犬とは

シニア犬とは高齢の犬のことを指しますが、犬の品種やサイズで寿命が異なることもあり、その時期は一定ではありません。小型から中型犬では7~8歳が中年期で、10歳以上をシニア期と呼ぶ場合もあれば、寿命の後半25%をシニア期と呼ぶ場合もあります。

シニア期になると腎臓や肝臓など内臓の機能、そして免疫力や体の修復力が衰え、さまざまな病気が増えます。その中でもシニア犬に多い病気には、歯周病や関節炎、腎臓病、心臓病、癌、そして視力や認知能力の低下などがあります。これら病気の発症を遅らせ、あるいは病気になってもよりよい管理につなげるためには、早めの対策が必要です。食べ過ぎを抑え適切な体重に管理することで、慢性疾患の発症が遅れ、寿命が延びた報告もあり、肥満の対策は犬でも重要です。

シニア犬のケア

シニア犬に多い病気にならないように若い時期から始めた方がよいケアや、シニア犬になって生じてしまった問題に対するケア方法を紹介します。

①口腔ケア

歯周病の悪化によって体(内臓)は元気なのに食べられなくならないように、あるいは歯周病菌が全身に回って病気にならないように、口腔ケアを行いましょう。シニアになってから、あるいは歯周病になってから口腔ケアを始めようとチャレンジしても、犬があまり受け入れてくれません。若いときから、歯周病がなく口腔内に痛みのない時期から始めましょう。

②体重・体格のケア

自宅でも定期的に体重を測り筋肉が落ちていないか体を触ってチェックしましょう。シニア犬は肥満になりやすかったり、逆に痩せてきたり、筋肉が落ちてきたりします。これらは運動量やホルモンバランスの影響だけでなく、病気によって生じる場合もあるため、食事や運動などの対策を行っても改善が乏しいようであれば、動物病院で診察を受けましょう。

③食事管理

病気の際は専用の食事が必要ですが、病気がなくてもシニア犬ではエネルギー消費の低下や消化率の低下などを生じる場合があり、それぞれの犬に合わせた食事管理が必要です。寝ている時間が増え、運動量やエネルギー代謝が低下すると、太り過ぎないようにカロリーを抑えた食事が必要になります。また、シニア期には食事の消化吸収だけでなく、吸収した成分を代謝・処理する能力も低下することが考えられます。栄養素の過不足に耐えられなくて、あるいは体に合わない成分の処理が上手くいかなくて体調を崩すことがないように、安全でバランスのよい食事を与えましょう。

④運動

筋肉量の維持やダイエットのために、適度な運動も必要です。大きく右回りや左回りのようにカーブを付けた歩行や、坂道や段差の上り下りのようにいつもと違う負荷をかけた運動を日々の散歩に取り入れることもできます。犬の健康状態に合わせて、無理のない範囲で行いましょう。

⑤環境対策

踏ん張りがきかなくなったり、目が見えなくなったりすると、生活し慣れた環境でも事故を起こす場合があります。滑らないように、落ちないように、挟まらないように、ぶつかってもケガをしないように対策を取りましょう。

⑥病気対策

メス犬では、子宮に膿が溜まる子宮蓄膿症という病気があります。通常、犬には年に2回の発情期があり、この病気は発情から数か月以内に発症することが多いため、この頃に体調に異変を感じたら早めに動物病院を受診しましょう。またメス犬では乳腺腫瘍もよく発生します。乳腺腫瘍はお腹を撫でている際に気づく場合もあります。犬の乳腺は下腹部だけではなく、被毛で覆われている胸の部分にもあります。しこりを感じた際にも動物病院で相談しましょう。シニアのオス犬では前立腺疾患が増え、血尿や血便の原因になることもあります。いずれの病気も、卵巣を切除した避妊手術済みのメス犬や、精巣を切除した去勢手術済みのオス犬では、発症が抑えられます(なくなります)。

⑦投薬・療法食

シニアになると慢性疾患のために、動物病院から薬やサプリメント、療法食を処方されている場合もあるでしょう。これら治療によって病気が改善した場合も、改善しない場合も、そして投薬が上手くいかない、あるいは療法食を食べないといった場合も必ず報告しましょう。獣医師が薬や療法食の継続、中止、変更を正しく判断するためには、飼い主からの報告がとても大切です。また、さまざまなサプリメントが市販されていますが、薬の効果を弱めたり逆に強めたりと病気の際には使用を控えた方がよい場合もあるため、サプリメントを使用する際にはかかりつけの動物病院に相談しましょう。

⑧マッサージと触知

マッサージは血流を改善し、こわばった関節や筋肉をほぐす作用だけでなく、犬の異常に気づく触診にもなります。しこりや痛みのある個所がないか、犬の反応を見ながら、左右差を気にしながら、たくさん触りましょう。マッサージも犬の状態や病気に応じて無理のない範囲で行ってください。

⑨その他身体チェック

このほか、体温や呼吸数をチェックする方法もあります。おとなしい犬であれば、人間と同じように体温計を脇に挟んで体温を測定することができ、呼吸に合わせた胸の動きで、呼吸数をチェックすることもできます。日頃から測定していると、病気の際にはいつもと違う体温や呼吸数に気づくことができます。

シニア犬のケアは、シニア犬それぞれでシニアのレベルや病気の種類や程度が異なるように、ケアの行える範囲も異なります。実施に不安のあるケアは、かかりつけの動物病院で指導を受けながら行いましょう。

シニア犬の検査

飼い主は毎日見ているからシニア犬の異常に気づけることがある一方、毎日見ているから変化に気づかないこともあります。健康状態の確認、そして異常の早期発見のためには、動物病院で行う定期的な検査が必要です。

日々の生活の中で気づくために

日々の生活の中で気づけることはたくさんあります。食べにくそうであれば、口の中に問題があるかもしれません。異常な歩き方に気づけば、関節や神経の病気かもしれません。声をかけて反応が悪くなれば、耳が遠くなっているのかもしれませんし、体調がすぐれず反応が鈍くなっているのかもしれません。吠える声や足音の変化、体臭や口臭の変化で異常に気づくこともあるでしょう。犬は被毛に覆われているため見た目ではわかりにくく、触ることで気づけることも多くあります。筋肉が落ちて背骨が触れるようになっていたり、ふくらみやしこりを感じたり、熱感や痛みに気づく場合もあります。

これら異常に気づかなければ、対策は取れません。ただし、表にあまり現れない病気もあります。例えば、お腹の中に腫瘍があっても明らかな症状がない場合もあります。慢性腎臓病も初期は症状がありません。健康に見えても病気が隠れている場合もあるため、このような異常を見つけるために、動物病院で検査を受けましょう。

動物病院で行う検査

中年期や健康な時期の検査結果は、シニア期になってからの結果と比較ができるため、病気の早期発見や深刻度の評価に役立ちます。例えばシニア期に行った検査結果が少し高めの数値だった場合、以前から常に高めだったのか以前は正常だったのかで、追加検査や対策が異なります。

動物病院の検査は身体検査や血液検査だけではありません。これだけではわからない病気もあるため、尿検査やレントゲン、超音波検査などを行います。人間ドックのように犬の健康診断「ドッグドック」を実施している動物病院もあります。犬の品種や年齢、性別、既往歴などによって、検査項目の数を変える場合もあります。

検査結果は問題のないことが一番よいのですが、異常が見つかってもその対策を取る(治療を行う)ことができ、よりよいシニアライフの提供につながります。

定期健診は、中年期では1年に1回、シニア期では半年に1回が推奨されています。病気があるとより頻繁な通院や検査が必要になり、治療のために投薬の管理も行わなければなりません。治療ができてよい生活を送ることができる場合もあれば、深刻な病気だったり治療への反応が悪かったりしてケアが大変な場合もあります。飼い主ひとりで抱え込まずに、相談しましょう。

わんちゃんは長生きすれば、シニアの時期を迎えます。目が白くなってきたり、被毛がぼさぼさになったり、垂れ耳が立ったり、ゆっくりとした歩き方になったりします。写真を撮っても、ウロウロが止まらずブレブレの写真になったり、呼んでも振り向かずにうつむいたままの写真になったりします。寝ている時間が長くなるので寝顔の写真や寝癖のついた寝ぼけ顔の写真が増えるかもしれません。シニア犬になったその姿、仕草の一つ一つもとても愛おしいものです。ここにあげたケア方法が、シニアわんちゃんとの生活を大切に過ごせる一助につながれば幸いです。