犬の食事に含まれる水分のメリットとデメリット

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 みなさんの愛犬の食事はどのようなタイプですか?

 ドライフード?ウェットフード?それとも手作りごはん?

 その食事には、どのくらいの水分が含まれていますか?

 第二十一回のコラムでは、犬の体内の水分の役割についてお話しました。

 今回は犬の食事に含まれる水分について解説します。

水とは

  水は水分子の集まりです。水分子はH2Oの化学式で表され、水素原子(H)がふたつと酸素原子(O)がひとつ、共有結合という結合方式でしっかり結合しています。水分子同士は水素結合で緩く結合しているため、水には流動性が生まれます。この性質により、水が主な成分である血液は流れ、栄養素を必要とする組織に、そして老廃物を排泄する組織に届けることができます。また体内の代謝反応は、さまざまな物質がその構造を変え、反応が進行していきますが、これも水に物質が溶けているからスムーズに反応が進みます。

 生命活動に水は必須であり、動物は水がなければ生きられません。渇きを覚えると動物は水を飲みますが、体内の水分はこの飲み水によって得られる以外に、食事に含まれる水分や栄養素の代謝によって生じた水分(代謝水)からも得られます。

食事に含まれる水分量で異なる飲水量

 犬の食事で最も多く利用されているドライフードにも、その重量の10%前後の水分が含まれています。缶詰やパウチのようなウェットフードでは60から90%の水分が含まれています。

 ドライフードのみを与える場合とウェットフードのみを与える場合では、どのくらいの水分量の違いがあるのでしょうか。体重5 kgの犬の1日に必要なエネルギー量が350 kcal、この犬に与えるドライフードが10%水分量で100 gあたり350 kcal、ウェットフードが80%水分量で100 gあたり100 kcalの場合で考えてみましょう。

 ドライフードのみを与える場合、この犬の1日に必要なエネルギー量350 kcal分のドライフードは100 gです。この100 gに含まれる水分は10 gです(100×0.1=10)。ウェットフードのみを与える場合、1日に必要なエネルギー量350 kcal分のウェットフードは350 gです。この350 gに含まれる水分は280 gです(350×0.8=280)。同じ350 kcal分の食事ですが、ドライフードにはわずか10 gの水分しか含まれず、一方ウェットフードには280 gもの水分が含まれています。

 このように、ウェットフードに含まれる水分は、犬の必要な水分量に大きく貢献することがわかります。ドライフードからウェットフードや手作りごはんに変更した際に、愛犬が水を飲まなくなった(飲む量がとても少なくなった)ことに驚かれた飼い主さんもいらっしゃると思います。ウェットフードに含まれる水分によって、体に必要な水分の大部分を賄うことができ、体が十分に潤い、渇きをあまり覚えなくなり、飲水量が減るのです。

生物と食事の水分量

 水は植物にも動物にも欠かせない成分であり、その重さの大部分を水分が占めています。食材にも同様に水分が含まれていますが、調理(加工)する段階で水が加えられたり、あるいは加熱や乾燥によって水が減ったりすることで、最終的な食事(食べる時点での食事)は、さまざまな量(割合)の水分を含むことになります。

 水分の多い食事(食材)には、肉や鮮魚、野菜や果物などがあり、私たちが日常口にする食事のほとんどは水分の多い食事です。水分の多いペットフードには缶詰やパウチ製品があります。一方、水分の少ない食事には、クッキーや乾燥野菜、干物などがあり、ペットフードではドライフードのほか、おやつのジャーキーなどがあり、犬に与えられている食事で多いのは水分の少ない食事です。

食事の水分量の違いによるメリットとデメリット

 水分は細菌やカビのような微生物の生存や増殖にも利用されるため、水分の多い食事(食材)は、微生物が増殖する前に食べる(早めに食べる)か、適切な環境(冷蔵や冷凍など)での保存が必要です。これを怠ると、食事の腐敗や食中毒につながります。この対策として、食事に含まれる水分を減らす方法があり、保存性を向上することができます。

 食事に含まれる水分は、たんぱく質や糖のような他の食事成分と結合した結合水と、結合せず自由に動くことができる自由水とに分けられます。微生物は自由水を利用するため、食事に含まれる自由水を減らすことは、保存性を高める有効な手段です。

 この食事に含まれる水分を減らす方法には、干物のように乾燥させて水分を減らす方法があり、ペットフードのドライフードもこの方法です。また、ジャムのように砂糖を利用して糖と水分を結合させ自由水を減らす方法(砂糖漬け)や梅干しのように塩を利用して浸透圧で水分を引き出し、塩と水を結合させ自由水を減らす方法(塩漬け)もあります。ペットフードでも、グリセロールやプロピレングリコールのような保湿剤を使用して自由水を減らした半生フードがあります。半生フードはドライフードとウェットフードの中間の水分量で、ドライフードより水分量は多いですが、自由水が少ないため微生物が増殖しにくくなっています。ちなみに、プロピレングリコールは猫に貧血を起こすため、キャットフードへの使用は禁止されています。プロピレングリコールを使用した犬の半生フードを誤って猫が食べないようにしましょう。

 水分(自由水)を減らした食事は微生物の増殖が抑えられるため、防腐剤のような添加物の使用を減らすことができます。また、嵩が減り、重量が減るため流通やコスト面においてもメリットです。水分の多い食事は保存のために冷蔵庫や冷凍庫が必要なだけでなく、嵩が大きい分、その保管場所も多く占領してしまいます。ドライフードのように、水分の少ない食事は、常温で長く保存でき、その重さあたりのエネルギー密度が高く、災害時の非常食としても重宝します。

 ペットフードに含まれる水分は、保存性やコストの面を考えると少ない方がいいですが、動物のことを考えると多い方が推奨される場合もあります。その代表が尿路結石の病気を持っている場合です。尿路結石にはいくつかの種類があり、その原因もさまざまですが、共通した対策は水分摂取量を増やすことです。摂取する水分が増えることで尿量が増え、尿中の結晶(結石の成分)が希釈され、結石形成を防ぐことにつながるからです。

 犬は食事に含まれる水分量が異なっても、飲水によって必要な水分量を調節する能力は優れているといわれています。猫の場合、ウェットフードよりドライフードを食べている方が飲水量は多いですが、食事に含まれる水分量も合わせた総水分摂取量はウェットフードを食べている方が多く、犬も腎臓病のような病気の場合や脱水に注意が必要な場合など、十分な飲水量を確保したい際にはウェットフードの方がいいかもしれません。

 みなさんの愛犬の食事の水分量はどのくらいですか?

 愛犬に水分を摂らせるために、ドライフードをふやかす飼い主さんもいらっしゃいます。ウェットフード並みの水分にするためには、ドライフードにその重さの2倍くらいの水(ぬるま湯)が必要です。例えば、ドライフードが10%水分量の場合、このドライフード100 gに200 gの水を加えると、およそ70%水分量のフードになります(ドライフードと加えた水の合計300 g、ドライフードの水分と加えた水の合計210 gで、210/300×100=70)。ふやかすために加える水が多すぎると、食事の嵩が増えすぎて必要な量を食べきれなかったり、無理して食べて胃の容量が耐えられずに吐いたり、体調を崩したりするかもしれません。愛犬の体調に合わせて加える水分は調節しましょう。

 ふやかしたドライフードを好む犬もいますが、カリカリのドライフードが好きな犬にはやわらかいフードは見向きもされないかもしれません。また、製品によっては全くふやけず、いつまでも水に浮いているドライフードもあります。与える際には愛犬がむせないように注意しましょう。また、ふやかすために長時間、常温で放置すると衛生面で心配です。加熱すると早めにふやかすことができる場合もありますが、フードに含まれるビタミンなどが多少破壊されるかもしれません。

 ドライフードを砕くことでふやけるスピードは速くなりますが、非常に硬いドライフードもあります。ハサミや包丁で一粒ずつ砕く飼い主さんもいらっしゃいますが、毎食の作業だと大変です。食事を楽しみにする愛犬にせがまれ怪我をしないように注意してください。フードプロセッサーなども利用しましょう。

 ふやかしたドライフードがいいか、ウェットフードを購入した方がいいか、今まで通りの食事で過ごすか、愛犬と相談しましょう。