犬の肥満(後編)減量のための食事

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「犬の肥満」の前編と中編では、太る原因と肥満の問題点、減量のために必要なことを解説しました。

今回の後編ではわんちゃんの減量のための食事や注意点についてです。

減量のための食事

①エネルギー量の確認

与えている食事のエネルギー(カロリー)量を確認しましょう。市販のペットフードやおやつを与えている場合はパッケージに記載されているエネルギー量から、手作り食の場合は日本標準食品成分表(食品成分データベース)から、1日に与えている食事とおやつの総エネルギー量を計算しましょう。求めた総エネルギー量と「犬の肥満(中編)」で説明したRER(安静時エネルギー要求量)を比較し、犬の摂取しているエネルギー量が多すぎであれば、与えている量を見直し(減らし)ましょう。

それほど多い量を与えていないのに太っている場合は、RERよりさらに少ないエネルギー量の食事にする、または食事内容を変更しないと減量できないかもしれません。食事量を減らす場合は注意が必要です。通常ドッグフードは、決められた量を与えることで必要な栄養素量が摂取できるように設計されています。エネルギーを制限するためにドッグフードの量を減らし過ぎると、ビタミンやミネラルのような必須栄養素が不足するかもしれません。減量専用のドッグフードは、エネルギー量を抑えながら、必須栄養素は不足しないように設計されているため、減量目標のエネルギー量がRERを下回るようであれば、専用の減量フードを与える方がよいでしょう。今までと同じ食事で、量を減らして減量を試みる場合、必須栄養素が不足しないように栄養素量の確認を行い、不足する場合はサプリメントなどを用いましょう。

目標設定が厳しすぎる過度な食事制限は、犬の元気さや体力が落ちてしまうかもしれません。また、筋肉が痩せ、体重が減りにくくリバウンドしやすい体になる可能性もあります。推奨されている週に体重の1~2%の減量スピードは減量の数値目標にできますが、数値だけでなく犬の調子も見ながら減量は行いましょう。

②三大栄養素

三大栄養素であるタンパク質、炭水化物、脂質のうち、タンパク質の多い食事を与えると、食事への満足度が高くなり、食事の摂取量や催促の減少につながり、食事制限時の不満解消になるかもしれません。

減量のためのタンパク質摂取量の目標として、理想体重kgあたり2.5g以上含む食事が推奨されています。これはタンパク質の量であり、肉の量ではありません。例えば、鶏のささみ肉の場合、100gあたりタンパク質が約25g含まれます。理想体重が10kgなら、減量のためには25g以上のタンパク質摂取が望ましいため、これはささみの量だと100 g以上になります。ただし、通常ささみのみを食事として与えることはありません。ドッグフードにささみをトッピングする場合も、手作り食でほかの食材と一緒にささみを与える場合も、他のフードや食材に含まれるタンパク質量と合わせて考えましょう。

また、エネルギー量も考慮しなくてはいけません。与える予定量のドッグフードにタンパク質を増やすためにささみを追加すれば、その分、エネルギー量が多くなってしまいます。また、ささみの追加量が多すぎれば、ドッグフードの栄養バランスが崩れてしまうかもしれません。さらに慢性腎臓病など、タンパク質の多い食事を与えてはいけない病気もあり、ささみなどを追加できない場合もあります。

減量のためのタンパク質量を達成するためには、食事の総タンパク質量や総エネルギー量、食事全体の栄養バランス、犬の病気の有無も考慮しながら行わなければならないため、動物病院など専門家の指導を仰ぎながら行う方が安全に実施できます。

脂質は食事の嗜好性を高め、三大栄養素の中で最もエネルギー量が多く、減量の際には大敵です。また、脂質の多い食事によって体重の増えた研究があるため、減量時には食事の脂質量を抑える方法もあります。ただし、脂質を制限しすぎると、食事の嗜好性が落ちるだけでなく、脂質中に含まれる必須脂肪酸(リノール酸)が不足する可能性もあるため注意しましょう。食事の脂質に亜麻仁油やごま油のような植物油を使用する場合、同じ量であれば、リノール酸を多く含むごま油を選択する方が、より少ない脂質量で必須脂肪酸を補うことができます。

炭水化物は消化吸収のよい種類の糖質より、食物繊維量の多い種類の方が満腹感を持続させます。ゆっくり消化吸収され、肥満の原因にもなるインスリン分泌を穏やかにします。また、食物繊維は乳酸菌のような腸内の善玉菌の食事にもなり、スムーズな排便、腸内環境の改善につながり、減量への良い影響も考えられます。

③嵩増し

野菜のようにエネルギー量の低い食物繊維を増やすことで、食事の嵩が増し満腹感が得られます。また、水分量を多くした食事は、エネルギーを増やさずに嵩を増やすことができますが、水分の方が速く体内に吸収されるため、満腹感の持続には食物繊維による嵩増しの方が良いと言われています。

④その他

このほか市販の減量用フードには、脂質の代謝にかかわるL-カルニチンのような成分が添加されたりしています。

サプリメントも摂取エネルギー量を増やす一因になっている場合もあります。オメガ3脂肪酸を含む製品など、サプリメントのエネルギー量も考慮しましょう。

減量のために食事以外でできること

①運動

減量のために運動は有効ですが、運動に耐えられる体の状態かどうか確認しましょう。

運動の際も疲れが見えたら無理せず、運動や散歩が嫌いにならないようにしましょう。小型犬の場合、疲れたら抱いて帰ることができますが、大型犬の場合そうはいきません。足腰が痛かったり、息が上がったり、疲れて動けなくなる場合もあるため、カートなどを用意したり、無理のない散歩コース、散歩時間を設定しましょう。

②食事対策

食事の回数は1日1回より1日量を3~4回に分けて与えた方がエネルギー消費につながります。

食べるスピードが速すぎる犬のために、食事に時間のかかる容器(フードボール)もあります。また、ドライフードを入れるおもちゃもあり、これはおもちゃで遊ぶときにフードが出てくる仕組みになっています。運動に使ったり、退屈しのぎやフード欲求の解消にも利用できるかもしれません。

最後に

わんちゃんの減量は、飼い主次第です。

わんちゃんが喜んで食べる姿を見ることは楽しいですし、食事を欲しがって甘えてくる姿もうれしいですね。減量の取り組みは、これらを飼い主がどこまで我慢できるかにもかかっています。

減量用のドッグフードを今までのように喜んで食べてくれないと寂しいですが、美味しくないごはんを食べて可哀そうと考えるより、美味しいごはんを我慢させてダイエットさせるよりはストレスが少ないと考えた方が、わんちゃんの減量の取り組みの持続につながります。

減量が達成できても以前の食生活に戻れば、再び体重は戻ってしまいます。引き続きより良い体重を維持しましょう。減量より維持の方が容易です。

野生下では生きるために食べ物を探し続けますが、飼育下では努力せず、尻尾を振ることで、吠えて催促することで食べ物が提供されます。食べ物を得るまでのエネルギー消費と食べ物に含まれるエネルギー量が等しくなるようにコントロールすることが、一緒に暮らす私たちの努めです。

動物病院では、減量のための栄養管理も行っています。運動療法を実施している動物病院もあります。肥満程度と考えず、かかりつけの動物病院に相談しましょう。