犬の骨と関節

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みなさんのわんちゃんの足腰、元気ですか? 元気にお散歩に行くことができていますか?

今回は、わんちゃんの骨や関節についてのお話です。

骨について

骨は体を支える役割のほか、頭蓋骨や肋骨のように脳や肺など内側の組織を保護する役割もあります。また、筋肉が付着し、関節とともに「てこ」として作用します。骨は、カルシウムのようなミネラルの貯蔵庫でもあり、赤血球や白血球などを作る造血組織でもあります。

骨は硬く、常に同じ形と考えてしまいます。一般的な煮たり焼いたりする調理では、骨の見た目や硬さはほとんど変わりません。このため、骨は不変なものと考えてしまいますが、体内では常に変化する組織です。破骨細胞によって骨は溶かされ、骨芽細胞によって新しい骨が合成されます。骨は生涯を通じて動的な組織です。体内のカルシウムが不足するような時には、骨からの動員を増やし、血中のカルシウムを維持するように体は反応します。

骨の構成成分としてカルシウムは有名ですが、このほかリンやマグネシウムのようなミネラルも含まれます。また、コラーゲンも多く含まれ、骨に含まれるタンパク質の大部分はコラーゲンです。骨は、コラーゲン線維の間にカルシウムなどのミネラルが沈着して形成されます。健康な骨のためにはカルシウムが大切といわれていますが、コラーゲンがあることで、骨は硬いだけでなく、しなやかさも備えた丈夫な組織になります。

関節について

二つ以上の骨が軟骨や靭帯などで連結している箇所が関節です。関節のおかげで、体の各部位では曲げ伸ばしやねじる動作を行うことができます。背骨の骨一つ一つの関節の動きは小さいですが、すべての背骨の関節の動きを合わせると、体幹もさまざまな方向に動かすことができます。

頭(顔)の骨はヒビが入っているように見えますが、この部分は関節のように線維性の組織でできています。胎児の頭が産道を通るときに圧縮できたり、成長後、頭をぶつけたときの衝撃を吸収し、頭の骨が折れるのを防いでくれます。

関節の主な構成成分はコラーゲンです。コラーゲンは体内に豊富なタンパク質であり、骨や皮膚、腱、靭帯にはⅠ型コラーゲンが多く、軟骨にはⅡ型コラーゲンが多く含まれています。

コラーゲン線維の三次元構造は、消化管内ではあまり分解されませんが、炎症部位では酵素反応により分解されてしまいます。その後、軟骨や骨に存在する細胞が新しいコラーゲン線維を分泌し、炎症部位は修復されます。

骨には栄養を運んでくれる血管が分布していますが、軟骨にはありません。軟骨の細胞は、周囲からの拡散によって栄養を得なければいけません。軟骨細胞の周囲が石灰化してしまうと、この拡散が上手く行えず、軟骨細胞は消滅してしまいます。これは加齢とともにも生じ、高齢時のコラーゲン再生を妨げる要因のひとつです。

変形性関節症(骨関節炎)

骨と関節の病気は、ヒトでは、骨粗しょう症や変形性関節症が有名ですが、犬でも、変形性関節症(骨関節炎)はよく起こる病気です。

関節内で炎症が生じると、軟骨コラーゲンが分解され、炎症が悪化してしまいます。関節軟骨は、関節にかかる圧力を分散するショックアブソーバーとして作用しますが、この機能が悪くなれば、負重のたびに関節には通常以上の圧力がかかってしまいます。

犬の変形性関節症の発症は、ヒトと同様に高齢になると増えますが、肥満によって関節への体重負荷が増えたり、生まれつき(先天的に)関節の構造異常を持っていたりすると、若い時期から発症してしまう場合もあります。先天性の病気には、小型犬の膝蓋骨脱臼や大型犬の股関節形成不全などがあります。若い間は症状がない(わかりにくい)場合もあり、歩行異常や足の痛みが生じて気づく場合もあります。

変形性関節症の痛みがひどくなると、歩くのを嫌がったり、近づくだけで怒ったりする場合もあります。動物病院では、関節の痛みがひどい場合は、非ステロイド系の抗炎症剤(NSAID)が処方される場合があります。痛み止め(抗炎症剤)は、痛みや炎症を抑えますが、胃腸や腎臓に副作用を生じてしまう可能性もあります。高齢犬では、内臓が悪くなっていることも少なくなく、このような痛み止めを処方できない場合もあります。

動物病院では痛み止め以外に、関節の構成成分であるコラーゲンやグルコサミン、コンドロイチン硫酸のようなサプリメントが処方される場合もあります。これらサプリメントは、関節の破壊を減らし、壊れてしまった関節軟骨を再構築させる可能性があります。変形性関節症の犬にコラーゲンサプリメントを与えた研究では、改善を認めた報告も出てきています。

サプリメントはNSAIDと比べ、痛みの早期改善は期待できませんが、副作用の心配はほとんどありません。より安心して用いることはできますが、投与量はきちんと守りましょう。また、変形性関節症への効果が認められても、サプリメントの使用中止によって症状が再発することもあり、継続的な投与が必要になる場合もあります。

変形性関節症では、薬やサプリメントだけでなく、運動も大切です。高齢時には筋肉量も減少し、変形性関節症からの回復にも時間がかかります。太っていると動くことを嫌がり、筋肉量の少ない脂肪太りになってしまい、関節への負重が強く生じてしまいます。よりよいコントロールのためには、筋肉量を保ち、太りすぎであれば減量のための食事管理や運動も必要です。ただし、変形性関節症が悪化して痛みを伴うと、運動療法が難しくなってしまいます。高齢になると、心疾患のように他の病気の併発により運動ができない場合もあり、こうなると筋力も保てず、体重管理も食事のカロリー制限に頼ることになってしまいます。変形性関節症は、悪化すると治癒を妨げる負のスパイラルに陥る場合があるため、それぞれの犬に応じて適切な対策が必要です。

変形性関節症にならないのが一番ですが、発症してしまった場合、体重管理と運動療法、そして栄養管理が重要になります。犬のリハビリを専門に行う施設や動物病院もあります。わんちゃんの変形性関節症を専門家に診てもらいながら、より良い管理を行いましょう。

運動だけでなく、日常過ごす環境にも配慮してください。みなさんのわんちゃんは、障害物を避け、フローリングを慎重に歩くタイプですか?わんちゃんの筋力が少なすぎたり、変形性関節症がひどかったり、性格がおっちょこちょいだったりして、滑ったり、転んだりしてしまうようであれば、環境の整備も行いましょう。

コラーゲン摂取のための食事

コラーゲンは消化に抵抗性ですが、加熱に弱く、変性してゼラチンになります。ペットフードでは、コラーゲンを多く含む骨や軟骨などを原材料として使用する場合もありますが、ペットフードの一般的な加工方法はコラーゲンの加水分解を増やし、その消化性は改善されています。

一方、手作り食では、食材に骨や軟骨を使うことはほとんどありません。コラーゲンを多く含む皮や軟骨を用いることで、コラーゲンを摂取することは可能ですが、コラーゲンの作用をより期待するのであれば、コラーゲンのサプリメントを用いる方が効率的でしょう。

わんちゃんにコラーゲンを多く摂らせようと、鶏皮や軟骨ばかりの極端な食事を与えてしまうと、栄養バランスが崩れてしまいます。健康のために不健康な食事にならないようにしましょう。