犬への炭水化物の必要性(前編)

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炭水化物はタンパク質や脂質と並び、エネルギーを作り出す三大栄養素のひとつです。犬の栄養基準には、タンパク質や脂質の量はありますが、炭水化物の量はありません。では炭水化物は必要ないのでしょうか?

犬はオオカミと比較されることがよくありますが、オオカミの獲物は主にタンパク質や脂質で構成されています。では犬もタンパク質や脂質が中心の食事がいいのでしょうか?

今回は、犬の炭水化物の必要性について紹介します。この前編では炭水化物を含む食材や炭水化物の分類、そして食事に含まれる炭水化物の量について解説します。

炭水化物を多く含む食材

炭水化物を多く含む食材は、ごはんなどの穀類やジャガイモなどの芋類が有名ですが、炭水化物には糖質のほか食物繊維も含まれるため、食物繊維の多い野菜も炭水化物を多く含む食材です。私たち人間や犬が食事をすると、食事に含まれる炭水化物が消化管から分泌される消化酵素や腸内の微生物の働きによって分解され、体内に吸収できるサイズになります。一部の炭水化物は消化されないため(分解されないため)、体内に吸収されず、そのまま便となって排泄されます。

炭水化物の分類

炭水化物は、炭(炭素、元素記号C)と水(化学式、H2O)の化合物で、非常に多くの種類があります。これら炭水化物を分類する方法もいくつか種類があり、この分類は炭水化物の理解にも役立ちます。ここでは、炭水化物のサイズ、動物が消化できるかどうか、腸内細菌が利用できるかどうかの違いなどで分ける方法を紹介します。

炭水化物のサイズによる分類

炭水化物は最も小さい単位である単糖類のつながった長さ(単糖類の数)の違いによって分類することができます。サイズの大きい順に並べると、多糖類、オリゴ糖、二糖類、単糖類の順番です。

ごはんやジャガイモの中に含まれるでんぷんは多糖類です。多糖類の大きな構造のままでは腸から吸収できないため、消化酵素によって単糖類という最も小さい糖類に分解されます。セルロースも多糖類のひとつですが、でんぷんと異なり消化酵素では分解されない炭水化物です。

オリゴ糖は単糖類が3から10ほど結合したサイズであり、フラクトオリゴ糖やラフィノースなどがあります。プレバイオティクスの作用を持つオリゴ糖は、ビフィズス菌のような有益な腸内細菌の食事となりその数を増やしてくれます。

二糖類にはショ糖(スクロース)や乳糖(ラクトース)などがあり、単糖類がふたつ結合した構造をしています。乳糖は軟便の原因(乳糖不耐症)になる場合があり、牛乳でよく問題になりますが、牛乳(牛の母乳)だけでなく、ヤギミルク(ヤギの母乳)にも犬の母乳にも含まれています。母乳を飲む時期の子犬は、乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)を多く持っていますが、成長するにつれてその量は減少します。このため子犬よりも成犬の方が、乳製品の摂取によって分解されなかった乳糖が腸管内に多く残り、乳糖の水分を腸管内に引き込む作用などにより水分の多い便になると考えられます。

最も小さい炭水化物の単位である単糖類には、ブドウ糖(グルコース)や果糖(フルクトース)などがあります。血液検査の血糖値は、血液中のグルコース(GLU)を検査した値です。グルコースは多くの細胞でエネルギー源として利用されるため、絶えず必要な組織に届けられるように血液の中を流れています。炭水化物の消化吸収で血中に取り込まれたグルコースのほか、肝臓に蓄えられているグリコーゲン(多糖類)の分解やアミノ酸などからグルコースが作られる際の反応(糖新生)によって、血糖値は一定に保たれるように制御されています。

炭水化物の消化性による分類

二糖類以上の炭水化物には、動物の消化酵素で分解(消化)できる消化性炭水化物と、動物の消化酵素では分解できない非消化性炭水化物に分類する方法があります。

アミロース(でんぷんの一種)とセルロースはどちらもグルコースのつながった多糖類ですが、結合方法が異なります。動物はアミロースになるグルコースのつながり(結合)を分解する消化酵素を持ち消化することができるため、アミロースは消化性炭水化物です。一方、セルロースになるグルコースのつながり方(結合部位)は動物の消化酵素では分解できません。セルロースは非消化性炭水化物です。

炭水化物は一般的に糖質と食物繊維に分けられますが、これは消化性の分類と同等と考えられます。糖質は動物の消化酵素で分解でき、食物繊維は分解できない炭水化物です。

この動物の消化酵素では分解できない食物繊維は、腸内細菌によって分解される発酵性食物繊維と、あまり分解されない非発酵性食物繊維に分類できます。前者はオリゴ糖などが含まれ、後者の代表がセルロースです。

犬の食事に含まれる炭水化物の量

犬の食事であるドッグフードには炭水化物がどの程度含まれているのでしょうか?

環境省の「ペットフードについて考えよう!!」のパンフレットには、犬と猫の食事の三大栄養素の割合が載っています。標準的な犬用ドライフードでは、タンパク質は25%、脂質は15%、炭水化物は60%の割合で、三大栄養素の中では炭水化物が最も多く含まれています。標準的なドライのドッグフードの割合ですので、すべてのドッグフードに当てはまるわけではありませんが、多くの製品はこのような割合だと考えられます。

毎日の主食に推奨されている総合栄養食のドッグフードの基準には、炭水化物の量はありません。ドッグフードの炭水化物量を確認したくても、パッケージに表示されていない場合も多いです。また、ドッグフードの場合、炭水化物という表記よりもNFE(可溶無窒素物)という名称が一般的で、この量で表示されている場合があります。このNFEは炭水化物とは異なり、糖質に近い成分です。

ドッグフードに表示されている粗繊維は、一般的な食物繊維とは違います。食物繊維と粗繊維では分析方法が異なります。食物繊維の量も犬の栄養基準では決められていませんが、ドッグフードに多すぎるとその分、低エネルギー(低カロリー)の食事になり、必要なエネルギー量を食べることができない恐れがあり、ドッグフードの質を表すために粗繊維量として表示されることがあります。

ドッグフードのパッケージに炭水化物やNFEの記載がないからといって、炭水化物が含まれていないわけではありません。特にドライフードの製造でよく使用されるエクストルーダー(押し出し機)という機械で作られるドライフードはその製造工程の中で炭水化物が必要なため、多くのドライフードには炭水化物が含まれています。みなさんの愛犬のドッグフードには炭水化物が含まれていますか?どのように表示されているか、フードのパッケージを確認してみましょう。

今回(前編)は、炭水化物の分類(炭水化物の種類や働き)、ドッグフードの炭水化物の表記について主に解説しました。

次回(後編)は炭水化物の消化と吸収そして役割について解説します。